JAPONisme Vol.19 – 2018年秋
2018年10月1日発行 第19号
- こころの道標(みちしるべ) 大谷暢順(ジャポニスム振興会会長)
- 幼きものへ 絵 永田萌
- 郷土玩具~子を思う愛のかたち 林直輝
- 玩具に込めた願いと祈り
- つくり手の、今~伏見人形窯元「丹嘉」八代目 大西貞行さんに聞く
- 「オトンコレクション」で巡る郷土玩具の旅 横田百合
- お知らせ
- ジャポニスム・六条山通信 花と森の本願寺〈十一〉 山折哲雄(ジャポニスム振興会特別顧問)
- 六条山のたから筥⑦
今号の試し読み:「オトンコレクション」で巡る郷土玩具の旅 横田百合
実家で胸キュン、衝撃の再会
私の父=オトンは30歳を過ぎた頃(昭和30年半ば)、まだ結婚前のあるとき、仕事で出かけた先で福島は会津の張子「赤べこ」と出会いました。そのゆらゆらゆれる首と、とぼけた顔のなんとも言えない味わいにとても心ひかれたそうです。それ以来、日本各地への旅行や、百貨店の物産展や展示会、専門店、日本郷土玩具の会などの集まりに出かけ、少しずつですが各地の郷土玩具が我が家へ集まってきました。
私はというと、子どもの頃から当たり前に見ていたそのコレクションに、時には遊び相手になってもらいながらも、特別に愛着を持っていたわけではありませんでした。
しかし8年前、母が亡くなったことをきっかけに、それまで離れていた実家で父と暮らすことになってしばらくのこと。以前より家の中で存在感を増したコレクションをあらためて眺めてみると、その素朴であたたかみのあるフォルムや表情に、鮮やかで独特な色彩に、ほっとするような、思わずニンマリするような心持ちになり、なんてかわいらしい! おもしろい! と、新鮮な驚きを持って再び出会うこととなったのです。
匠と呼ばれる高い技術を持った人々が生み出す高級な工芸品とはまた別の、不思議な魅力にあふれていました。モダンとも思える大胆なデザインのもの、丁寧に繊細につくられたもの、中には一見「雑」にも思えるようなものにも、ユーモラスで愛嬌のある、今の「ヘタうま」や「ゆるキャラ」にも通じる「カワイイ」がありました。昔の人にこの感覚があったこと、それが長く受け継がれてきたことにとても衝撃を受けました。
オトンコレクション発動!
記録がてら、一つひとつをスマートフォンで撮影し、「オトンコレクション」としてSNSに投稿することを始めました。その際に、これはどこの何であるのか父にたずね、それにまつわる話をしてもらいました。それぞれに物語や意味があったり、願いが込められていることを知り、興味はますます深くなりました。観光地のお土産もの、というだけではない奥深さがあったのです。私も母がそうであったように、少しずつオトンコレクションに協力、追加していくことになります。
昔むかしの人々の、暮らしの中にあった身近なもの、農業を営んでいれば「藁」、林業なら「木」、やきものや瓦を作っていれば「土」、城下町のような都会なら「紙や布」といったように、その土地にあったものを使って、その土地の言い伝えなどとも結びつき、ならではの発想で、さまざまに個性豊かに作られました。自然と郷土色がにじみ出ています。そこに、魔除け、厄除け、災難除け、子どものすこやかな成長を願ってだとか、豊作を願ってだとか、今も昔も変わらない基本的でシンプルな祈りが加わっているのです。
人々の暮らしにそっと寄り添い、たくましく生きるために小さな支えとなったであろう郷土玩具たち。その健気で頼もしい姿にいとおしさをおぼえるのです。
郷土玩具を探して旅に出る楽しみもできました。お祭りや行事にちなんだものも多くあるのでそれを見物したり、お土産もの屋をのぞいたり、工房を訪ねたり、神社を巡って授与品を集めたり。そのとき手にしたものは、やはり旅の思い出と共にそこにあることになり、特別な思いが加わります。工房で注文したものが、1年あまりかけて届いたりすると旅の続きを味わうような感激があります。
また、父が昔買ったもののなかで、今も作られているまったく同じものを買ったり、シリーズであったであろうものの仲間(たとえば干支など)を買ったりということをします。ほとんど変わらないものもあれば、作者が代替わりしたり、一度廃絶したものを保存会の方が復元したりしていると、少し趣が変わっていることがあります。並べて見てみると時のながれや、時代が求めるものの変化なども感じるのです。
父の思い、私の願い
後継者がいなくなり、消えていく玩具が多数あることが残念でなりませんが、一方で手仕事の素晴らしさに出会い、ものづくりを始める人も増えていっているように思います。純粋に受け継ぐ人が増えていって欲しいことはもちろんですが、新たな郷土玩具を作る人が現れればいいなとも思います。その土地の色をにじませつつ、自分の子どもを喜ばせたいというような思いで、自由に作者が思ううつくしさを求めるような新たな郷土玩具、ぜひ見てみたいです。
父は2014年、86歳で亡くなりましたが、大切なものを遺してくれました。私の郷土玩具と出会う旅はこれからも続いていきます。
横田百合(よこたゆり)
グラフィックデザイナー。郷土玩具のコレクションを撮影、SNSに「オトンコレクション」として投稿(instagram@yuriplus)5 年前より毎年、京都 一乗寺 マヤルカ古書店にて写真展を開催。日本郷土玩具の会、全日本だるま研究会会員。
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