JAPONisme Vol.1 – 2014年4月号
2014年4月1日発行 創刊号
CONTENTS
- ジャポニスム振興会特別顧問、文化勲章受章の中西進氏による寄稿
「ジャポニスム振興会創立によせて」 - 加賀乙彦氏、芳賀徹氏、山折哲雄氏からのメッセージ
- 華道にみる「真行草」
- 花まつりの美・・・ほか、全16ページ
今号の試し読み:「ジャポニスムについて/中西 進」
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ジャポニスムというときには、一時ヨーロッパに流行した東洋趣味(オリエンタリズム)といった漠然たるものとは違う、アジア文化の結論を世界に示さなければならないだろう。
といっても、わたしはナショナリストでも何でもない。自然なアジア文化の情況についていうにすぎないが、ごく簡単にいうと、アジア文化はインドから中国を経て日本に到る潮流を大筋として作られてきた。この流れの中でインド文化の想像力は中国の論理力を加え、日本の感傷力をもって完了する。そのみごとな総和を「極東」の日本が背負ったのである。
もちろんこれらが、それぞれ熱帯国の大洋に向くインドと、大陸である中国とから生まれた物に日本の風土が加味された物であることを考えると、それでは先立つアジア文化に加えられた日本の要素は何かが問題となる。
わたしはそれを一言でいうと、海洋性だと考えてきた。乾燥した広大な大陸性はいま豊潤で温暖多雨の海洋性の中で変容され、成熟した。それを次のような比喩でいうことができる。
日本文化の一つの特徴は、極小の物のもつ細(くわ)しき美にある。帯留や小金具の精緻をきわめた細工。これらは例えてみれば海辺に散らばる貝の美しさに似ている。
事実として貝のきらめきを利用した螺鈿細工もあるが、同じ漆工に用いられる蒔絵の手法も、一面にこぼれる砂子の触感を連想させる。秋すだく虫の音も貝に通う極小の美をもつ。
いやいや巨大な物もけして拒否することなく、面積が世界一の仁徳天皇陵(大仙陵)も日本の文化財だが、大和国原に点在する古墳の姿は、かつて詩人によって「青き鯨」にたとえられた。海といえば琵琶湖といえども「勇魚(いさな)とる」と後のちも歌われつづける。
日本人は情緒の深さを愛し、四角四面な頑固さに、さして価値をおかない。この強い流動性は海と限らずとも水がもつ特性である。流れゆく川や雲、またそこにおこる渦や飛沫は風に揺れる花穂や雨に濡れる柳の情緒にも通い、なべて流動する水の特性を日本人が愛することは甚だしい。
その美の至高は、ひらがなの発明であろう。文字をもし楷書のみで書いていれば、ひらがなは生まれない。崩し字の連綿の美の中にさまざまな字の芸術が登場し、ついにひらがなとよばれる文字体系まで誕生した。
これまた水に囲繞される風土がおのずからに作り出した日本文化であった。
ジャポニスムとは、このような加味を得て成熟したアジア文化の特性のことであろう。そしてじつはこれこそ、グローバル化しつづける地球文化の形成にとって、いまもっとも必要な物ではないだろうか。
(続きは会報誌Vol.1「ジャポニスム振興会特別顧問、文化勲章受章の中西進氏による寄稿「ジャポニスム振興会創立によせて」」をご一読ください。)
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