JAPONisme Vol.4 – 2015年冬
2015年1月1日発行 第4号
CONTENTS
- 「ジャポニスム振興会」とは
- ジャポニスム振興会会長 大谷暢順の新刊
- 篠井英介氏インタビュー - 伝統を演じ日本を舞う
- むすひのことわり 山口信博(グラフィックデザイナー・折型デザイン研究所主宰)
- アグリアートフェスティバルレポート
- 暮らしの中のワンポイント「歓喜」
今号の試し読み:「伝統を演じ日本を舞う」
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現代劇の女形として舞台で活躍されるほか、テレビ、映画でも活動を続けておられる篠井英介さん。
石川県の顔として石川県観光大使に任命され、今年三月末からのNHK連続テレビ小説「まれ」ではレギュラーを務めるなど、多忙な日々にもかかわらずお時間をいただき、お話をうかがいました。
■聞き手)こんにちは。お忙しい中、お時間を頂戴してありがとうございます。
今回の紙面は、「結び」をテーマにしております。篠井さんは、伝統的なものが多く残る金沢市の中心部でお育ちになったわけですが、結びについてのご記憶はおありでしょうか。■篠井)そうですね。私が生まれたころ、国民の休日を旗日と言って、国旗を掲揚していましたよね。今はそんな家が少ないですが、休日の中でもお正月は、今よりもっと特別なものだったような気がします。(→)
(→)正月は挨拶回りということで、家を訪ねてくる人が多かった。うちでは、名刺受けとして、黒い輪島塗の三方にお懐紙をのせ、そこに名刺を頂戴していました。名刺を押さえるために置かれたのが、小さい銀の打出の小槌で、それに朱房の飾り紐がつけられていて。幼い目にもきらきら輝く小槌に朱色の房飾りが目に焼きついています。特別な日の象徴のような感じがしたのでしょうね。
■聞き手)四季の移ろいを大切に感じながら暮らすことが、日本ならではの風情を出しているのですね。歴史ある街で子供時代を送られた篠井さんですが、日本舞踊を始められたきっかけは、なんだったのでしょう。
■篠井)美空ひばりさんにあこがれて、自分から「やりたい」と言い出したのです。
時代もよかったのでしょう。高度経済成長期のただ中で、各家に余裕があった。一つ町内に、踊りやお謡、囃子方など、芸事のお師匠さんがたくさんいましたし、母もお茶をやっていた。そういうのが当たり前の環境だったから、自然と見聞きしたりふれたりする機会もありました。親も「変わった子やねえ」と言いながらも習わせてくれました。
踊りというのは、最初は女の踊りからやるんです。そのほうが立ち居ふるまいに色気がつくし、のちのち立役(男役)になっても、女形の心得がわかっているとやりやすい。幼くてそういう事に抵抗感がなかったし、向いているとも思い、女形を選んできました。
高校受験でちょっと遠ざかった時期はありましたが、それ以来、自分の道は芸にありと、大学は日本大学藝術学部演劇学科に入学し、俳優として活動してきました。
■聞き手)以来、NHKの大河ドラマや民放の連続ドラマなどにも出演される一方、舞台でも活躍されていますね。
■篠井)私は舞台での活動をできるだけ多くしたいと思っているのです。映画やテレビはあまりにはっきりと物事が見える面があり、舞台のように人の想像力をかき立てる度合いが少ない。
見る側の想像力と言えば、能はその極致ですね。舞台装置はほとんどなく、見る人の想像力で世界が広がる。何もない舞台が、寺や御殿や荒れ野になるのです。
女役をやると、「おかまのおじさんにしか見えなかった」と言う人がたまにいる(笑)。まあそれは僕の未熟さもあるけれど、いやいや観るあなただって想像力が足りない。いつまでも「あれは男だ男の声だ」と思っているから、と言いたいですね(笑)。映像は悲しいかな、映したら映したままなんです。
古典を題材にした劇を演じるにつけ、俳優は日本文化を知らないといけないと思うのです。日本の歴史や言葉、文化を、外国人にも説明できる知識を持つ者でありたい。役者はある意味日本人の代表ですからね。
着物を着る、帯を結ぶといったことも役者は大切にしたい。結ぶ位置一つ取っても、役柄や年齢によって異なります。そういうことを知らないといけない。最近の若い女優さんの着物の着方って、気になりませんか。たとえば、若い女性は裾がきりっとしまった着付け、これが年増になると、ずどんとした着付けになる。襟の合わせ方にせよ、年齢なりの着こなしというものがあるのですが、着物を着慣れないためもあって、娘さん役の人が大年増の着こなしをしていることもある。加えて身のこなしも大切です。これができていなかったら、いくらきれいに着付けてもらってもダメ。
今は心のある監督さんは、あえて廊下を渡るシーンなんか撮りませんよね。しぐさがそぐわないから。扇子を開くことが出来ないような人が主役をやっています。時代劇の味わいということでは、こういう細かい部分も大切にしていきたいですね。
シェークスピアの「ハムレット」で、私はハムレットの母親のガートルード役を演じたことがあるのですが、演出や舞台衣装は英国の人でした。
その方が言うには、古典劇は今でもコルセットをちゃんと紐で結ぶそうなんです。便利な現代の道具がたくさんあるのに、古いものでないと味わいが出ないのだと。着物の着付けにしろ、今はゴム紐のようなものがたくさんありますが、私はやはり、昔ながらの紐できちっと着る方が落ち着きます。伝統には、簡単に変えられない何かがあるのですね。
■聞き手)篠井さんのような方が、それを後世に伝える活動をされるといいのではないでしょうか。
■篠井)そうですね。各分野の人たちが集まって、日本の古典的な良いもの、美しいものを伝えて行くような運動があるといいなあと思っています。私もなにか橋渡しができるかなあと考えているんです。苦労したとは思わないけれど勉強はしてきました。
日本人の美意識は、今も綿々とDNAに刷り込まれていると信じています。若い人たちがそれに気づく機会をもっと作ることができたらいいですね。
(続きは会報誌Vol.4「伝統を演じ日本を舞う」をご一読ください。)
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