JAPONismeVol.32-2023年夏「お伽ばなし~昔、むかしの向こう側」
2023年7月1日発行 第32号
CONTENTS
- 「本願寺法主 大谷暢順の超・仏教書」大谷暢順(ジャポニスム振興会会長)
- むかし むかぁし あるところに
- おとぎ話が伝えるもの 河合俊雄
- ONE PIECE×歌舞伎×お伽ばなし 日常を超えるトビラ 尾上菊之丞
- 食べる喜び おはなしの中のご馳走 谷口智則
- お知らせ ジャポニスム倶楽部
- ジャポニスム・六条山通信 花と森の本願寺〈二十四〉山折哲雄(ジャポニスム振興会特別顧問)
- 六条山のたから筥⑲
今号の試し読み:食べる喜び おはなしの中のご馳走 谷口智則
昔話や絵本には昔からおいしそうな食べ物がよく登場します。
「おむすびころりん」のおむすび、「桃太郎」のきびだんご、浦島太郎の竜宮城でのごちそうなど、食べ物がきっかけでお話しが進んでいきます。
僕の絵本にもドーナツやワッフル、パンケーキなどたくさんのスイーツが登場するのですが、食べ物を絵本の主題として描くのは、おいしいものを食べるということは子どもにとっても大人にとっても生き物にとって共通の喜びだと思うからです。
僕の絵本で『くいしんぼうのクジラ』という著書があるのですが、この絵本は冒頭「おいらはクジラ いただきますがだいすきで ごちそうさまがだいきらい」という一文から始まります。
この一文を思いついたのは、当時2歳でまだあまり喋る事ができなかった娘に、ご飯を食べた後に「ごちそうさま」と言ったら泣き出してしまい、もう一度「いただきます」と言ったらニコニコしたのを見て、「まだごちそうさまじゃなくて もっと食べたかったんだ」と思ったのがきっかけです。
僕の絵本のクジラも「いただきます」を繰り返しながら、海の魚だけでは飽き足らず、川の魚を食べ、野菜や果物を食べ、そしてパンやご飯も食べ、そして最後にデザートまで食べて、最後にお腹が痛くなって海に帰っていきます。海に帰ったクジラは動かなくなり「ごちそ……」と言って、そこで島になるのです。
よく読者の方から「なんでクジラは島になったの?食べすぎて死んじゃったの?」などと聞かれますが、人類や生き物は毎日食べて、そしてまた食べて、みんなその命をまっとうしていきます。けれどそれは決して命や食べ物を絶やすためではなく、みんな次の世代に命を繋いで食べ物を繋いでいくために食べているのだと思うのです。
絵本のクジラはやがて「クジラ島」と呼ばれるようになり、たくさんの魚や野菜がとれ、おいしいレストランやパン屋さん、ケーキ屋さんがある素敵な島になりました。クジラは死んでしまったわけではなく、島となって次の世代に命や食べ物を繋いでいったのです。
冒頭にも書きましたが、おいしいものを食べることはみんなにとって共通の喜びです。桃太郎でもおいしいきびだんごと引き換えに猿、犬、きじは鬼退治に向かうのです。世界が平和であり、世界から困窮や飢餓がなくなることを願って、僕はこれからも世界中の人々に向けて、たくさんの「いただきます」を、喜びの光景を描き繋いでいきたいと思うのです。
谷口智則(たにぐち とものり)
絵本作家
1978年生まれ。金沢美術工芸大学日本画専攻卒業。2004年『サルくんとお月さま』で絵本作家としてデビュー後、フランスで絵本『CACHE CACHE』を始め数々の絵本を出版。その後イタリア、台湾、中国、カンボジアなど海外でも数々の絵本を出版し世界で活動している。絵本以外にも、広告やパッケージデザイン、商業施設の空間プロデュースなど多方面で活躍中。主な絵本に『100にんのサンタクロース』『サルくんとバナナのゆうえんち』など。『くいしんぼうのクジラ』で第9回、『カメレオンのかきごおりや』で第12回ようちえん絵本大賞受賞。大阪府四條畷市のPR大使も務め、四條畷神社参道に自身のギャラリーカフェzoologique(ズーロジック)も運営している。
「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」が「美術館えき京都」にて2023年夏開催予定。
「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」が「美術館えき京都」にて2023年夏開催予定。
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