JAPONismeVol.35-2024年夏「石見神楽~体感! 神話の世界」
2024年7月1日発行 第35号
- 「本願寺法主 大谷暢順の超・仏教書」大谷暢順
- 今に生きる石見神楽
- 神楽団・拝見① 大元神楽 市山神友会
- 神楽団・拝見② 石見神楽温泉津舞子連中
- 工房拝見 小林工房
- 独断的演目紹介 藤原宏夫
- エンターテイメントとして楽しむ日本神話 小野寺優
- お知らせ ジャポニスム倶楽部
- ジャポニスム・六条山通信 花と森の本願寺〈二十七〉山折哲雄
- 六条山のたから筥㉒
今号の試し読み:エンターテイメントとして楽しむ日本神話 小野寺優
神聖なる日本神話をエンターテイメントとして楽しむことは、不敬だろうか。日本の伝統文化の継承と新しい時代への適応。この2 つの要素をどのように両立させるかは、いつの時代も課題とされてきた。自著『ラノベ古事記』では、古事記の持つ難解なイメージを払拭すべく、八百万の神々をマンガのキャラクターのように個性的に描いた。若年層から高齢層まで幅広く、「古事記をスラスラ読めた」「笑いながら理解できた」とご支持いただく一方で、「罰当たりではないか」といった否定的なご意見も時折いただく。かくいう私も八百万の神々を尊ぶ身であり、不遜な行いに対する怒りはよく理解できるところだ。では、幼少期から魅力的なコンテンツに恵まれて育った現代の若者に向けて、我々はどのように伝統的な日本神話をアプローチすべきなのだろうか。私は「神々の個性」こそが、それを紐とく鍵だと考えている。
石見神楽はまさに神々の個性を引き立たせることで若者の心を掴み、良い形で伝統継承を遂げた成功事例だろう。室町時代から続く伝統芸能に、子どもからお年寄りまで地域全体で盛り上がっており、他を圧倒する熱気があるのだ。成功の理由は一目瞭然。神々の個性が映える煌びやかな衣裳に、躍動感あふれる蛇胴のヤマタノオロチ。時には雄大な海と空をバックにした会場で、神々が活き活きと舞う。この心震わせる美しさには、誰もが感動で言葉を失うことだろう。今風に言えば、最高にエモくて映えるのだ。若者の方から寄ってくるのも納得である。
しかし一方で、神楽は元々、神への感謝を示すために舞う神聖な神事であり、神職が夜を徹して奉納していた。「それを観光客向けのショーとして、楽しむとはいかがなものか」という意見もあるそうだ。だが、よく考えて欲しい。神楽の原点は「天岩屋戸」。太陽を失い世界の危機に直面した神々が、太陽神アマテラスを岩屋から引き出そうとして、アメノウズメに舞い躍らせた神話である。この神話で八百万の神々は、裸踊りに大爆笑して太陽を取り戻した。つまり、日本の神々はエンターテイメントが大好きなのだ。人々も共に神話を楽しんだ方が、神々も喜んでくれるに違いない。
そもそも、古事記は国家が公式に編纂したとは思えないほど、エンターテイメントとしての魅力に富んでいる。愛する夫のイザナギを殺そうと追いかけるイザナミ、引きこもる最高神アマテラス、手の付けられない問題児スサノオ。個性的な神々の紡ぐ物語は実にドラマチックだ。特にヤマタノオロチ神話は、問題児だったスサノオが恋をすることで改心し、巨大なモンスターを倒してヒーローになるというサクセスストーリーであり、石見神楽でもラノベ古事記でもダントツ人気。楽しまなければ損というものだろう。
もちろん伝統を重んじることは大切である。しかし時には次世代を担う若者に響く新たな息吹を取り入れることが、日本神話を未来へと繋いでいくために必要なのではないだろうか。そうすることで日本神話は魅力的な輝きを増し、千代に八千代に人々から愛され続けるのだと私は信じている。
小野寺 優(おのでら ゆう)作家
駒碧(こまみどり)
漫画家・イラストレーター
「ラノベ古事記」のコミカライズを担当。『マンガ古事記』の著者として知られる他、パッケージイラスト・挿絵など多彩な分野で活躍。美麗かつ可愛らしいタッチで古典の世界を表現する。
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