威儀 i-gi
「威儀を正す」と聞いて、どんなイメージを持たれますか。おそらく、勲章を身につけた、ちょっといかめしい男性か、あるいは最高の正装をした貴婦人が、重々しくカメラに収まった、そんな光景を連想されないでしょうか。
このように、重要な発言、行動のために姿勢を改めることを、「威儀を正す」と言います。この「威儀」には、重々しくいかめしい挙動、法則にかなった振る舞いという意味があります。
仏教で「威儀を正す」とは、一挙手一投足、すべて他人に畏敬の念を起させるような仏弟子の行動のことを指します。仏の教えを実践する者として、ふさわしい行動が求められるということですね。すぐれた教えにより形成された内面の品格が外面に表れたということもあるでしょうし、形から入ることで、教えが身に染みていくということもあるでしょう。
「威儀」には、袈裟につけた平絎(ひらぐけ)の紐で肩にかけるものという意味もあります。僧侶が読経の際、肩紐をシュッと引き締める動作をご覧になられた方もいるでしょう。これは威儀の位置を整え、文字通り威儀を正しているのです。
会報誌2号11ページ中央左の五条袈裟の写真をご覧ください。浄土真宗では胸元に結んだ幅が広い紐を「大威儀」。左腕に結んだ幅の狭い紐を「小威儀」と呼びます。前述の仏弟子が従うべき行動規範が、この名称の元であることは言うまでもありません。
私たちは人前に出るとき、身だしなみを整えます。それは決しておしゃれのためだけではありません。いい意味で人目を気にし、祝の席であれば、ふさわしい服装で出席するのが、招いた側に対する礼儀というものです。折り目正しい服装に折り目正しい挙措動作を煩わしく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、対人関係をスムーズに運ぶためのベースと言ってもいいでしょう。
私たちの生活の隅々にまで浸透している仏教関連の言葉。ここからも、昔の人々の生活に、仏教が切り離せないものだったことがうかがえます。
- 『広辞苑・第四版』(岩波書店)
- 『岩波仏教辞典』(岩波書店)