歓喜 kan-gi
毎年、年末の風物詩としてベートーベンの交響曲第九番第四楽章「歓喜の歌」が日本各地で演奏されています。タイトルやメロディに、明るく新年を迎えたいという気持ちが合致しているためでしょう。また、欧州連合(EU)では、自由や平和への賛歌として歌われています。
歓喜とは「たいそう喜ぶこと」ですが、昨年一年間、皆様はどんなことに喜ばれたでしょうか? 長年の夢がかなったり、新しい発見があったり、素晴らしい出会いがあったり。そんな文字を並べるだけで心が浮き立つようです。
人から受けた親切や恩が心からありがたく、感謝の気持ちに満たされた。そんな人もいらっしゃるでしょう。日常のふとしたことにも人の助力やはげましはありがたく、気落ちしているときなど、しみじみ身にしみます。
このように人の恩をありがたく感じ、感謝することを「感恩(かんおん)」と言います。人の繋がりが希薄で隣人が信じられなくなるような事件が起こる現代社会において、「感恩」は得がたく尊いことです。
さてこの歓喜ですが、仏教では「かんぎ」と読みます。仏教における歓喜とは、仏の教えを聞き、信じて疑わない心が定まった時に起こる喜びのこと。親鸞聖人は『一念多念文意(いちねんたねんもんい)』で「歓は身をよろこばせ、喜は心をよろこばせる」とし、真実の信心を得ると心身ともによろこびに包まれる。それが歓喜であると説かれています。
信じて疑わない境地になれば、心は平らかで何の心配もない。心が信じる喜びに充たされ、それが感恩の喜び、すなわち歓喜に発展するのです。新しいこの年に、あなたはどれだけの歓喜に出会うでしょう。これからの一年に、たくさんの幸いと喜びが訪れるよう願います。
最後に句佛上人(彰如上人。東本願寺第23世法主)の句をご紹介しましょう。上人が日本画の師、竹内栖鳳先生の東山の居宅に突然の年始に行かれ、先生を驚かした際の句です。
「初夢の蒲團をまくる東山(はつゆめの ふとんをまくるひがしやま)」
- 『岩波仏教辞典』(岩波書店)
- 『他力本願と私』(KKロングセラーズ)
- 『句佛俳句集 我は我』(書物展望社)