花と森の本願寺〈17〉大谷祥子(OHTANI Shoko)
一夏ごとに、子どもの成長を感じ、来る秋の実りに感謝する頃となりました。未曽有の事態下においても、変わらず花咲き、鳥啼く六条山の森羅万象の営みを目にいたしますと、この災禍は人間界にのみ与えられた試練、警鐘のように感じられ、多くの気づきをもたらしてくれます。また、その中で、それぞれの境遇を懸命に生き、守り抜こうとする人々の真摯な姿勢も見せていただきました。
本願寺法主 大谷暢順台下は「新型コロナ肺炎禍に向けた御親示」の中で、「無明の世だからこそ、他者に想いを寄せる慈悲の心を互いに分ち持ち、人類共通の試練を乗り越えていこうではありませんか」と呼びかけております。
この呼びかけに応え、ジャポニスム振興会は、「本願寺写経」を全国で推進し、写経を通して人類共通の試練を共に乗り越えて参りたく考えております。
「本願寺写経」は四種類あり、その内「六条念佛」という写経は、六つの条を重ね信心を表します。心を整え、自らの煩悩に気づき、過去において善を重ねた宿善に導かれ、人生の師から教えを授かり、光明(阿弥陀仏から放たれる限りない光)に出遭う道であります。
無明の闇から光明が降り注ぐ瞬間は、極促(ごくそく)の時とも言われ一瞬です。私達が信仰の喜びを感じ美しい心でいられるのも一瞬です。このひとときを何度も持つために、私達は学び、友と語らい、師に習い修養を続けます。写経もその一つであり、慈悲の心、感恩の心を養います。
人の一生は「一切皆苦」。一つの脅威が去った後も、再び新たな苦難が待ち受けていることでございましょう。しかし、いたずらに思い煩ってばかりはいられません。私たちは伝統や文化、そしてこの地球を更なる脅威から守り次世代に引き継いで行かねばなりません。今、停滞している日々の生活や経済につきましても、皆で協力し希望を持って立て直して行かねばなりません。
平時でも利己心を押さえて生きるのは難しく、ましてや非常時になればなおさらです。私たちは、釈尊がお示しになられたように、一切皆苦の世にあっても、「慈悲の心」をもって他者に想いを寄せ、共に試練を乗り越えていこうではありませんか。